2015年10月1日木曜日

[書評]新たな“オウム”検証本発刊、我々(ソト)とカルト(ウチ)を隔てる“境界線”とは

宗教情報リサーチセンター編、國學院大學神道文化学部の井上順孝教授の責任編集による新たなオウム真理教検証書籍が発刊された。

〈オウム真理教〉を検証する:そのウチとソトの境界線』 

4年前に発刊された同じ編者による『情報化時代のオウム真理教』の続編にあたる書籍だ。本紙でも紹介した『情報化時代の~』が未曾有のテロ事件である一連のサリン事件以前のオウムにスポットを当てていたのに対し、本書は、帯に「地下鉄サリン事件から20年。事件への記憶と関心が薄れゆくなか、今日の問題として多角的な視点からオウムを考究し、その深層をえぐり出す。“宗教”と“人間”を考えるうえで必読の書」とあるように、様々な時代背景から時系列を超え、それぞれの論者がそれぞれの立場から論考を重ね、現在の問題としてオウムについて検証した書籍だ。




第一章では、麻原の説法集(教本)からその言説を解読し、教本の段階を踏んでゆくごとに非合法活動から宗教殺人・テロという凶行に突き進んでいった教団の「犯罪と信仰の有機的結合」を明らかにしている 。

第二章では、麻原の側近だった新實智光、早川紀代秀、廣瀬健一の裁判での証言を中心に彼らの入信から犯罪行為に至る経緯を詳らかにし、その軌跡を現在も起こっている同様の事例の教訓とすることを提言している。

 第三章では、オウムを脱会した元信者の手記から「彼らが脱会前後に抱いた疑念」を検証、疑念から脱会にいたる心の動きを追い、脱会者がウチとソトの境界線を行き来する例などを挙げ心理的に自由になることの困難さを強調している。そして「理性というものは意外にたやすく惑わされる」と警笛を鳴らす。

第四章では、オウムが使った偽科学の手口を分析、理系が多かった幹部信者が何故麻原の言説に絡め取られたかをニューエイジ思想や超能力獲得などのキーワードで読み解いている。また、麻原の外れた予言の取り繕いと盲信する信者の関係をフェスティンガーの認知的不協和理論に当て嵌めて検証している。

第五章では「暴力を正当化する教えや実践」がどのように教団内で教化されていったのかを、説法の場面から検証し、暴力肯定の構図を明らかにしている。

第六章では、オウムを見誤った3人の宗教学者、中沢新一・山折哲夫・島田裕巳を取り上げ「宗教情報リテラシー」の向上の必要性について語っている。一連の事件が発覚する以前はオウムや麻原を礼賛してきたこれら宗教学者の言説の変遷(中沢→オウム信者を愚者扱い・山折→オウム変質論を唱え認知的不協和に陥る・島田→調査不足に起因する錯誤で「騙された」と弁明)から、メディアでの「専門家」の発言を鵜呑みにせず、リテラシーを持つことが彼らの「失敗」から汲み取れることではないかとしている。島田の項目で著者はこう語る。「調査経験を重ねた宗教研究者ならよくわかっているが、宗教団体がいつも本当のことを話すわけではない。自団体に不利なことな どであれば、隠したり、伏せたりすることは当然と言えるかもしれない。宗教学者やメディアが意図的に嘘をつかれること、騙されることもある。だが、嘘の説明を受けることと、それをそのまま自分の言としてメディアで発信することとは、別のことであろう」

第七章では、1995年から行なわれている大学生に対する宗教意識調査アンケートから16年間の学生の宗教問題に関す認識の変化を読み解いている。そしてその結果を踏まえ、メディアの宗教報道の問題点について触れ「キチンと取材して報道しているかどうか」「一部からカルト視されている教団を支援するかのような記事を掲載する日刊紙さえある」として事態の悪化を警戒する。

第八章では、今もロシアで続いているオウムの活動を取り上げ、科学者など知識人を取り込んでいったオウムのロシア進出を 検証している。

そして巻末には「遺族の20年」について地下鉄サリン事件の被害者遺族である高橋シズエ氏の特別寄稿が掲載されている。


宗教社会学という学問分野から改めてカルト問題を照らし出した10人の執筆者による本書の論考は、サリン事件などオウムによる凶悪事件の記憶が薄れ始めた現在社会に改めて警笛を鳴らすものだ。

サリン事件ほどの直截的な凶行に至らないまでも、問題ある宗教団体による問題行動は今も続いている。そして現在もオウム事件当時と同じ様に、頓珍漢な言説を語る一部の問題ある宗教学者も存在している。

第六章を担当した著者の一人である塚田穂高・國學院大学助教は本書についてこう語る。
「前書が基礎編で本書が応用編となる。オウムだけを想定して書いたものではない」


~本紙関連記事~

【書評】 現代宗教社会学研究の画期的書籍“情報時代のオウム真理教”

1 コメント:

匿名 さんのコメント...

法の華の福永は刑務所から出所し元気に活動中。映画や芸能界デビューも。

オウムの麻原が刑務所から出ても、同じようになるのかもしれない。

世間は忘れっぽい。